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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第28弾 『幸せのお裾分け』 進級を控え新たなメンバーを迎える前の1年生最後の合宿 何とか初日の日程を無事終えた 入浴を済ませると皆と別れ自動販売機でジュースを買う 頼まれてはいないけど同室の友の分も当たりをつけて買っておく 階段を登って割り当ての部屋へ ドアを開けると彼女がベッドに寝転んだまま携帯を眺めていた 彼女は携帯中毒ではないはずなので割合珍しい光景ではある 私に気付くと 「おかえりー」 と携帯を閉じて声を掛けてくれた ジュースを彼女に勧めたが 私の選ばなかったほうで良いと言う 記憶を頼りに彼女の好きそうなほうを渡す 今日はもう寝るだけなので 私もベッドに寝転んで彼女ととりとめのない話に興じる しばらく話して気がついた どうも彼女はいつもと違っている 学校や家を離れているからというわけでも無さそうだ どこかうわの空、いつもの彼女じゃない 時折向けられる視線から察するに さっきから携帯を気にしているとみた 今夜も餌食になってもらおう 「ねえ、仲上君にはもう、おやすみコールしたの?」 「なっ、しません!」 「ふーん、てっきり離れ離れでさみしいってメールでもしてるのかと思ったんだけど」 「…べ、別に2泊する位でそんな事」 「ふーん、ねえねえ、普段はどんなやり取りしてんの?」 「普段?」 「幸せのお裾分けくらいしてよ、もったいぶらずに」 「メールのやりとりなんてしないよ」 「全然?」 「全然」 「なんで?」 「さあ、結局なんだかんだで身近にいるからかな」 「いいのか それはいいのか?」 「どうだろ」 「じゃあホントに今までメール送った事ないんだ?」 「うん」 「ふーん」 「なによ?」 「でも、今日くらいは送ったんでしょ?」 「ううん」 「いつも一緒にいる二人が離れ離れになっているというのに、何にもなし?」 「うん、そんなに いつも一緒にいるわけじゃあ…」 「仲上君からも来ないの?」 「うん」 「ふーん、そうなんだ」 「もぅ、なあに?」 「こりゃ、愛されてないわね」 「えっ」 「ふつー、愛し合う二人がこんな状況ならメールが乱れ飛んでるわよ」 「そんな事…」 「いーや、よく考えてごらん、今、この瞬間も仲上君は比呂美にメール1通送るより 大事な事やってることになるのよ」 「それは、眞一郎くんだって色々忙しいし、私なんかの相手だけしてる訳にもいかないし…」 「じゃ、比呂美は?」 「私?」 「今、仲上君にメール1通送るより大事な事何かしてる?」 「うーん」 「ほら?」 「うん」 「別に長電話で相手を縛るんじゃないんだからいいんじゃないのかな?」 「そうなのかな」 「もし、仲上君からメール来たらうれしい?」 「うん、まあ」 「『まあ』?」 「う、うれしい、かな?」 「じゃあ、仲上君は比呂美からメールもらったらどう思うかな?」 「さあ?」 「本気?」 「…嬉しいと思ってくれたら嬉しいけど…」 「比呂美ぃ、あんた仲上君のこと信じてないの?」 「え?」 「仲上君、比呂美からのメールもらっても、なんとも思わない薄情な人間だと思ってんの?」 「そんなことないけど」 「よし、決まり、思いっきりラブラブなの送っちゃえ」 「ラブラブって… そんなんじゃないんだから」 「もうっ! 送るのっ? 送らないのっ?」 「送りますっ!」 「よろしい」 「あの…」 「なに?」 「実はね…」 「うん」 「さっきから、ずっと送ろうかとは思ってたんだけど どんな文面がいいか分からなくて… どうしたらいいのかな?」 「やっと正直になったわね」 「えっ?」 「もう、分かるって、ずっと携帯 気にしてるし」 「朋与…」 「で、内容は? 下書きくらいしてるんでしょ?」 「ダメ、恥ずかしい」 「恥ずかしいような内容なんだ」 「ち、違うよ、ヘンな内容なんかじゃないんだから」 「ふーん?」 「じゃあ… 笑わないでね 『こんばんは こちらは問題ありません 早く帰りたいです おやすみなさい』 なんだけど どうかな?」 「それだけ?」 「うん」 「うーん、なんていうか、あんた達いつもどんな会話してんの? 何処に愛があるの?」 「愛って… 『早く帰りたい』に一応気持ちは込めたつもりなんだけど」 「もう少しあふれ出る情熱とかはないの?」 「そういわれても」 「『逢いたい』『寂しかった』『声が聞きたい』『帰ったら抱きしめてね』『今夜は泣いて眠ります』 とかなんとか」 「朋与すごい」 「何よ、イヤミ? ねえ、それイヤミ?」 「ち、違う、違う」 「短くていいからさ、今の素直な気持ちをひとつ入れといたら? 別にさっきのが悪いとは思わないけど」 「うん」 ブルブルブル… 突然振動音がした 比呂美の携帯? 水色のイルミネーションが瞬いている 「うそ、眞一郎くん?」 比呂美はそう呟くと携帯を取り上げる 何故表示も見ずに分かる? さてはイルミネーションを専用設定にしているのか? 一度もメールした事ない相手に まあ 何て 乙女 「どうしよう 眞一郎くんからメール来ちゃった」 そう言う比呂美はなんだかかわいい 困ってる なかなか読もうとしない 「読んでみ、もしなにか急ぎだったらいけないから」 少し脅かす そうでもしないとモタモタしそうだ 「うん」 こわごわと携帯を開いて画面に見入る 深呼吸してからボタン操作 おいおい いまさら告白でもあるまいに何を緊張してるのかね 画面をなぞる視線が緊張を帯びたものから安堵したものに変わる 取りあえずいい内容のようだ こっちも一安心 「そうなんだ」 などと独り言 幸せそうな顔しちゃって 野暮を承知で訊いてみる 「何だって?」 「あのね、おばさまがご飯を炊く量、間違えたんだって、私がいないのに…」 「へえ」 「『ケガの無いよう注意してがんばれ』だって」 「うん」 「明日の夜もメールくれるって」 「よかったじゃない」 「うん」 「で、なにか愛のメッセージは?」 「えーと、特には無いみたい」 「なんにも?」 「うん、 『そちらの調子はどうですか 家では母さんがご飯の量を間違えたといってぼやいてた ケガの無いよう注意してガンバレ! 明日の夜またメールする おやすみ』 だって」 「あんたたちはホントにもう…」 あのバカの顔を思い浮かべる 一時の比呂美を泣かせるような行動をしたときには正直腹が立った けど、くっついてからの比呂美は幸せそうだ 学校ではおおっぴらにはしてないけど 以前のような無理はしなくなった 時折みせた思いつめたような表情も影をひそめた おそらくいろんなことがうまくいっているのだろう 肝心な時に本音を話してもらえなかった事は寂しいが それなりの事情がありそうなので気にしないことにした 比呂美が彼のことを呼ぶときには クラスの皆の前では『仲上君』 だけど私の前では『眞一郎くん』 それだけ比呂美は私に気を許してくれてる それはそれで嬉しくもある って、それどころじゃない 「返事! 返事どーすんの!」 「あ?」 比呂美はポカンとしてる 相変わらずあのバカ相手だとどこか調子狂ってる 「ほら、早くしないと、彼、返事待ってるかもよ?」 少しいじめてみる 「どーしよう」 幸せそうに悩んじゃってまあ 「さっきのでいいんじゃない?」 「じゃあ 『メールありがとう 嬉しかったです こちらは問題ありません 早く帰りたいです おやすみなさい』 でどうかな?」 「『どうかな』って言われても… まあ、いいんじゃない あんた達らしくて」 「うん、じゃあ送ってみるね」 そう言いながら送信してる なんだかまるで中学生の男女交際だね らしいといえばらしいかな さて、もう少しお付き合いしてあげるか 「ところで、」 「なに?」 「仲上君とはどうなの?」 「どうって?」 「ドコまでいったの?」 「ドコって」 「分かってるくせに?」 「し、眞一郎くんはそんな男の子じゃないんだからっ!」 「ふうん、その辺りを詳しく、」 「知らないっ」 「もう、キスくらいした?」 「まだですっ!」 「じゃあ、しそうになったことは?」 「そ、それは…」 かかった! 今夜は楽しい夜になりそうだ 了 ●あとからあとがき 8話まで視聴済み 本シリーズの守護天使、朋与視点です。 奥手なふたりにはこんな存在が欠かせません。
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173 名無しさん@ピンキー sage 2008/06/12(木) 19 25 02 ID lUDAizeu 比呂美がストレッチしながら眞一郎とセックルしてる話か ガリンコを食べてたのに気がついたら眞一郎のガリンコを食べてたSSを誰か・・・ 176 ガリンコ sage 2008/06/12(木) 20 11 36 ID g6RonNKx 173 ガリガリガリ… 「比呂美、今何してるの?」 「んー、ガリンコ食べてる」 「ガリンコおいしいよね~」 「新発売のメロンソーダ味もおいしいよ」 比呂美はガリンコを食べながら朋与と電話をしていた その隣で眞一郎は教科書を前に大の字になりイビキをかいて眠っている 「そこに誰かいるの?仲上君?」 「うん。宿題が終わらなくて手伝ってたの」 「ホントだらしない奴ね~」 「朝から頑張ってたから疲れて寝ちゃってる」 「…じゃあ明日の朝練でね」 「うん。また明日、じゃあね」 比呂美は電話を切ると、口の中でぐにゃぐにゃになったガリンコの棒を捨てる 食べ終わってもアイスの棒を舐め続けるのはなぜだろう そんなことを考えながら眞一郎の傍に座った 「眞一郎君」 声をかけても熟睡しているようで起きる気配がない 比呂美の手が眞一郎のズボンの上に置かれ優しく摩り始める 眠りながらもそこは硬さを増していった 眞一郎を起こさないように慎重にチャックを下ろして器用に取り出す すっかり大きくなっているそれを手で握り上下に動かすと 「うぅ」と小さな声が漏れたがまだ起きることはない 「いただきまーす」 小さく言うと比呂美は口を開け、かぷっと銜える その様子はさっきまでガリンコを食べていたときと変わらない ただ食べているモノが眞一郎だという点だけが異なっている 「じゅるっ…じゅぱ…ずるっ……じゅるるる…」 ガリンコを舐め溶かすようなフェラチオ 眞一郎は夢を見たまま果ててしまった 「…うぅ…比呂美…」 「眞一郎君、目が覚めた?」 「……もうこんな時間か。帰らなきゃ」 比呂美は壁にもたれてイチゴ味のガリンコを食べている 『さっきのは夢…?』 眞一郎は夢にしてはリアルな感覚が下半身に残っていることを疑問に思う 「どうしたの?エッチな夢でも見た?(笑)」 「そ、そんなわけないだろ」 比呂美の口元から垂れる白い液体 イチゴ味のガリンコに練乳は入っていない ―終―
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5つめSSです突っ込みは止めて 「形にした思い出」 学校の帰り道私は携帯で保存した画像を見ていた 仲上家にいた時に起こったパプニングの画像だ 眞一郎君が洗顔フォームを歯磨き粉と間違えたとても漫画チックなシュチエーション ふふっと思い出し笑いをしそして何かを決意したかの様に外を出る 外を出て数分 私は少し古びた写真館の前に立っていた 少し思い留まったが店の扉を開ける 「はい、いらっしゃい~」 店前の古びた姿とは逆に若い女性の店員だった 「あの携帯の写真から現像をお願いしたいのですけど…」 私は携帯に付属していたSDカードをその店員に渡した 「え~と、この写真かな?」 示された写真は満面の笑みを浮かべてる眞一郎君の写真 「あ、は、はい」 私は少し顔を赤らめて答えた 「へぇ~いい笑顔じゃない あなたの彼氏かな?」 店員は少し意地悪っぽく質問する 私は困惑しつつ黙ってしまう その顔を察してか店員は 「ま~プライバシーを検索するのも失礼か 少し時間がいるけど今日中には出来るわよ」 とそれ以上の検索を止めてくれた 私はほっと胸を撫で下ろし お願いしますと答え店員と手続きをして一旦帰ろうとした時 「ちょっと待って 生徒手帳ある?」 と店員に呼び止められた え?はいありますと私は鞄から生徒手帳を取り出した 「これちょっと預かっていいかしら?」 店員はそういって私の生徒手帳を預かろうとした 「ええ構いませんが」 と答え私は店員に生徒手帳を預けた 「じゃあ出来上がったら携帯の方に連絡するから待っててね」 と店員は言い 私は帰宅した そして、家に帰ってから数時間後、 店から出来上がったとの連絡を受け私は店へ再び足を運んだ 私は代金を渡し出来上がった写真を受け取った 「毎度あり~」 店員の軽快な言葉がなぜが心地よかった 「はい後これも返すわね」 と店員は生徒手帳を返してきた 返された生徒手帳に少し違和感を感じ見てみると 頼んでいた写真が手帳に入っている あの、これと私が尋ねようとした時 「あ、それさっきの質問の時の謝罪だと思って 私の奢り」 店員はウインクをし遮るように言った どうやら見抜かれてた様だ がんばりなさいと励まされ 私は深く頭を下げ店を後にした 終わり 最後まで読んでくれてありがとう 泣いても笑ってもあと1話比呂美はもちろんみんなが笑顔で終われるといいですね
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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第30弾 『負けないんだから』 「眞一郎くん、早くっ」 「ああ、そんなに慌てなくても」 「もう、モタモタしない」 「はいはい」 「『はい』は1回!」 「はいっ」 「いってきまーす!」 「いってきます」 今日は朝練も無いので 眞一郎くんのお家にお迎え 連れ立ってのご登校 お休み明けなので久しぶり いつもの道を並んで歩く 彼ったらお出かけの準備は遅いくせに 歩くのは少し速い 「眞一郎くん、歩くの速いよ」 そんなに早くこの時間を終わらせたいの? 「さっきは急かしたじゃないか? 何か用があるのかと思って…」 クスッ 相変わらず 息が合わないなあ 「別に急ぐ用事なんてないよ」 「なんだ、そうなのか」 「うん」 「にしても もう 少し暑いなあ」 「そうかな?」 「女子はいいだろうけど…」 学生服 やっぱり暑いのかな あれ、袖のボタン取れかかってる そろそろいつものご挨拶のお家 あ、柵の隙間から顔だしてる 「おはよっ」 いつものわんこにご挨拶 この子は大人しいので人懐こそうな表情がお返事 「この犬もおおきくなったな」 「眞一郎くんも知ってるの?」 「そりゃ、登校ルート同じなんだから」 そういえばそう 同じ道を今まで何百回と歩いたというのに 一緒に歩いたのはほんの数回 悲しいような 切ないような でも、これからは違う 朝練のない日は絶対一緒なんだからっ こちらを見上げてるわんこにお別れ バイバイ 帰りのときまで、またね しばらくわんこの話題で彼とお話 並んで歩いたわけではないけれど ずっと同じ風景を眺めてきたと思えば これはこれで幸せな事なのかもしれない 小さな幸せはこんな身近に隠れてる もっともっと彼との幸せ見つけたい この角の茶色い屋根のお家、まだ新しい 中学3年の秋に建ったはず しばらく前から小さな変化 今日はどうかな あ、あった 「眞一郎くん、ほら、あれ」 「ん?」 「ほら、あそこ」 「なんだ」 「洗濯物、かわいい靴下」 「ああ、ホントだ」 「このお家ね 建ってから1年半くらいかな、新しい家族が増えたんだね」 「ああ」 彼の表情をこっそり覗う 子供好きかな? そうだといいな… 「ん?」 私の視線に気がついて彼がこちらを向く ほんの数瞬 視線が絡む 今はまだ言葉に出来ない問い… その答えを期待する 「どした?」 「ううん、なんでも」 やっぱり気が付かない 温かい家庭… いつかあなたと築けたら… なんて… 私の気持ち… もし、彼に全部知られたら 困るのは私… 恥ずかしい 校門が見えてきた 彼はどう思ってるだろう? あえてこの話題は避けてきた あとは確かめるだけ 再び視線が絡む 今度は笑いかけてくれた 私を安心させるように 私 今 不安そうな顔をしてるのかな 掲示板の前 学生達であふれてる 人ごみを掻き分け前へ進む A ない ない B ない ない C あった『湯浅 比呂美』 彼は? あった『仲上 眞一郎』 振り返ると 彼も見つけたみたい 「また、よろしく」 「うん」 よかった これでまた1年間同じクラス 2年C組 二人そろって教室へ 新しい教室 彼と私の接点となる大切な場所 もう新しいクラスメイト達が何人かいる HRまでまだ少し時間ありそう 作戦環境 よし 作戦開始 さりげなく彼の席まで近寄って 「あれ、眞一郎くん、制服、ボタンとれかかってるよ?」 「ん? そうか?」 「かして?」 「え?」 「直してあげる」 「いいよ」 「ダメ、眞一郎くんがだらしないと私が恥ずかしいの!」 「ひ、比呂美さん?」 驚く彼の耳元に囁きかける 「大人しく脱いでくれないと、お風呂の時、着替え見られちゃったって このクラスで言いふらしちゃうゾ」 「まて、あれは事故で…」 必死に取り繕う彼 私は余裕の笑顔で無言の回答 「はあっ、よろしくお願いします」 彼はため息を吐いてから周囲を見回して制服を脱ぎだした 私も視線だけで周囲を覗う 何人かは明らかにこちらを見てる 作戦は順調に進行中 「はい」 彼から制服を受け取ると 持参のソーイングセットを取り出して作業開始 「いつもそんなもん持ってんだ」 「うん、私はいつでも準備できてるんだから」 問いかけ以上の答えを返す 彼はやっぱり気がつかないみたい 今はまだ分かってくれなくても構わない 手際よく丁寧に仕上げる これは私のマーキング よし、作業終了 「はい、終わりました」 「ありがとう」 受け取ろうと手を伸ばす彼 私はそんな彼をほっといて別の行動を開始する 両手で制服の左右の肩辺りをもって『着せてあげる』の構え 彼は私の構えを見ても一瞬何のことか分からなかったみたいだけど すぐに気がついた 「お、おい、さすがに、それは…」 怖気づく彼の耳元に再びそっと囁く 「み・ら・れ・ちゃっ・た」 彼は再びため息を吐くと 立ち上がって私に背中をむける 少しかがんで準備よし 素直な彼はホントにカワイイ 袖を通してそのまま前へ まるで背中から抱きついているよう 大きな背中 男の子の背中ってやっぱり大きい ボタンも掛けてあげたかったけど さすがにそれはやりすぎかな でも、制服がブレザーだったら ネクタイ締め直してあげられるのに なんて、 その楽しみはもう少し未来までのお楽しみ 彼は真っ赤な顔をして 私のほうを見てくれない テレてくれてる 最後の仕上げ 「私、いいお嫁さんになれそうでしょ?」 彼の耳元にそう小声で言い残す これはさすがに私も恥ずかしい 彼の反応は確かめずに自席へもどる 作戦終了 これで新しいクラスでの共通認識が出来るはず 『仲上 眞一郎』の側には『湯浅 比呂美』が居る 作戦目標 その一 彼への積極的なアプローチ その二 周囲への領有権の主張 効果判定 その一、その二共に 大成功 席に着いてソーイングセットをしまう 今日だけはもう彼の方を絶対見ない 彼の方が私を見つめるている筈だから 「ねえ、比呂美」 「あ、朋与?」 「相変わらず アツアツだねえ」 「あれ、朋与も同じクラスだっけ?」 「やっぱり、私のことなんて忘れてたんだ」 「そ、そんな事ない…よ?」 「ううっ、仲上君と仲良くなっても私のこと忘れないでね」 「ちょ、朋与、泣かないで」 「じゃあ、私のお願い聞いてくれる?」 「な、なに?」 「『友人代表』は私にやらせてね」 「朋与… うん、そうなるといいな」 「比呂美はそのつもりなんでしょ?」 「…うん」 「じゃあ、大丈夫」 「うん、ありがと」 「あ、先生きたよ」 「うん、あとで」 「あとでね」 新しい一年が 今、始まった 了 ●あとからあとがき 8話まで視聴済み 元々は『マーキング』という題にする予定で下書きしてましたが、 雑誌バレで比呂美が仲上家を出るとの急報を受け急遽仕上げたおハナシです 作者の思いも入って『負けないんだから』に題を変更しました 前半と後半で比呂美の表面的な性格違いますが、 底流は同じ、ポジティブな比呂美をイメージしました
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前:ある日の比呂美5 眞一郎との約束の日は、この季節らしい曇天だった。 今にも雪が零れ落ちそうな……そんな空を、部屋の窓からボンヤリと見つめる。 朋与は今日、登校していない。 母が出勤したあとで、担任と部活の顧問に自分で連絡を入れ、『風邪』をひいたという事にしてしまった。 《湯浅が代わりに何とかするだろ。ちゃんと休んで、早く治せよ》 顧問の先生は、そう言葉で見舞ってくれるのと共に、比呂美が昨日の無断欠席を謝罪に来た事も教えてくれた。 (……比呂美は学校に来てる……) ……あれほど憔悴しきっていたというのに…… 迷っている時のあの娘は、とても弱い。平気な顔で日常を営むことなど出来ないはずだ。 ……比呂美も答えにたどり着いたのだな……と朋与は理解した。 分かるのだ。だって『親友』だから。 そして朋与は、『友情』という思考を閉じて、比呂美の事を考えるのを止める。 比呂美の想いを気遣って……などという言い訳はしたくなかった。 このあと起こる出来事に比呂美は関係ない。これは自分と眞一郎の問題なのだ。 ………… 壁の時計に目をやる。もうすぐ眞一郎がやってくる頃だった。 (…………もう時間か……) 仮病の電話をしてからこれまでの時間、朋与は意図的に何もしないで時をやり過ごした。 テレビも観ないし、ネットも繋がない。漫画も文庫本も読まないし、音楽も聴かない。 時折、脚に纏わり付いてくる猫のボーも無視した。 何かに集中することで、時間が早く過ぎてしまうのが怖かったのだ。 もちろん、そんなことで物理的に時間が延長されるわけはない。 ……それでも……朋与は自分の中で燻る『恋心』の要求を、完全に抑え込むことは出来なかった。 『終わりの始まり』を遅らせたい…… 少しでも長く、眞一郎を好きな自分でいたい…… ………… だが、現実はどこまでも朋与に対して残酷だった。 部屋の窓に切り取られた、彩度の失せた世界。その隅にライトグリーンの点が現れる。 何度か目にした事のある、特徴的なデザインのコート。 「変な趣味」とからかったことを思い出し、朋与は泣きそうになった。 (……なんで……約束どおりに来るのよ……) 少しくらい遅れて来れば良いのに。時間なんて守れない……いい加減な男になればいいのに…… …………いい加減な男に……なってくれれば…… そうすれば……比呂美と自分のあいだを……器用に立ち回って……そして…… ………… 「ハハ……馬鹿じゃないの、私」 乾いた声を出して、間の抜けた妄想を笑う。 眞一郎がそんな男なら、自分も比呂美もこんなに彼を愛したりしない。 ……こんな……胸の奥にある大切なモノが砕かれる苦しみを……味わうことはない…… ………… (……始めよう……) 朋与は窓から離れると鏡の前に立ち、今日の天気の様に曇った自分の顔に、ピシャっと平手で喝を入れた。 表情筋を想いとは逆に動かし、無理矢理に笑顔を作る。 自室を出て階段を降り、玄関へ。そしてチャイムが鳴るのを待っていると、ほどなく、眞一郎はやってきた。 朋与は呼び鈴と同時にドアを開け、満面の笑みで出迎える。 「……あ…」 眞一郎が口を開くよりも早く、その身体を中へ引っ張り込み、ドアを閉めてから乳房を押し付けるようにして抱きつく。 「……待ってたよ……」 眞一郎の反応は無い。平坦な表情を変えることも無く、朋与のしたいように身体を任せていた。 「来て、早く」と眞一郎の耳元で囁いて、一年前と同じ様に袖を引いて階段を上がる。 ………… 朋与は気づいていた。 眞一郎が、自分と同じ様に感情を押し隠す『仮面』を付けていることに。 お互いに涙を隠す仮面を被って演じる、観客のいない二人だけのお芝居…… ……そして……その仮面を外した時……自分と眞一郎は…… ………… (大丈夫……私は……大丈夫……) 覚悟はとっくに出来ている…… その固い決意とは裏腹に、笑顔の仮面の裏側で、朋与の心は泣いていた。 (変わってないな……) 朋与の部屋は『あの時』のまま、時間が止まっているかのようだった。 その景色はまるで、無意識に凍結させていた自分と朋与の気持ちが、形になって現れたように眞一郎には思えた。 「さぁ、しよ」 ドアの側から動かない眞一郎を放置して、朋与は服を脱ぎはじめ、あっという間に下着だけになってしまう。 ライトグレーのスポーツブラに包まれた朋与の乳房が眼にとまり、思わず視線を逸らす眞一郎。 朋与はクスッと笑いながら「今更なに照れてんの」と、幾分成長した胸を持ち上げてみせる。 そして机の引き出しを開けて中を漁ると、小さな箱を取り出して見せた。 「じゃ~ん!これ、買っておきました~!」 誇らしげに眞一郎に突き出される、高級スキンの箱。 朋与のテンションは上昇を続け、ニコニコしながら手にした物の説明を始める。 「これ凄いんだって。『つけているのに、つけてない感触』らしいよ」 薄々だよ~、きっと気持ち良いよ~、などと上機嫌な様子の朋与に、眞一郎は意を決して近づいていった。 見るからに不自然な浮かれ方をしている朋与から、スキンの箱を取り上げ、部屋の隅に投げ捨てる。 射抜くような眞一郎の視線に捕らえられ、朋与の動きがピタリと止まると、その顔から笑みが消えた。 …………そして………… 目の前まで迫った眞一郎の胸に、もたれ掛かるように身を預ける朋与。 「…………いいよ……眞一郎がつけたくないなら……そのまましてもいい……」 好きにしていい…… また中に出してもいい…… 妊娠したって……構わない…… そう囁いて、朋与は腕を眞一郎の背中へと滑らせる。 だが、その手が眞一郎を抱きしめる前に、朋与の身体は強い力で引き離された。 「…………眞一郎……」 「分かってるはずだ。俺が……何をしにここへ来たか」 朋与の瞳の色が濁り、眞一郎の眼差しが苦痛だと言わんばかりに眼を逸らす。 「……分かんない」 「朋与!」 「分かんないよッッ!!」 再び向けられた朋与の双眼は、悲しみに満ち溢れていた。 「…………比呂美なんて……眞一郎に相応しくないじゃん……」 朋与の口から漏れ出す、比呂美を罵倒する口汚い言葉の数々。 ちょっと可愛いからって調子にのってる…… 先に眞一郎に出逢ったからっていい気になってる…… いつも眞一郎を悲しませるクセに…… いつも眞一郎を苦しめるクセに…… 瞳を真っ赤に充血させて比呂美を罵る朋与を、眞一郎も悲しみに染まった眼で見つめる。 「……ひ…比呂美なんてッッ!!!」 「もうよせッ!!」 眞一郎の両手が朋与の肩を鷲掴みにして、正気に戻れとばかりに、その身体を揺さぶった。 「『俺に嫌われるための芝居』なんて、しなくていいッッ!!」 「!!!!」 朋与の唇が半分開いたまま止まり、小刻みに震え出す。 ……眞一郎には分かっていた。黒部朋与は、そんなことを考える人間ではないと。 …………朋を与えると書いて『朋与』………… その名のとおり、『朋』……友情を宝として、周りを気遣い、そして与え続ける…… そんな優しい少女…… それが眞一郎の知る『黒部朋与』だった。 ……もう……彼女を自分のために苦しめてはいけない……彼女に甘えては……逃げてはいけない………… 「俺がちゃんとするから。……ちゃんと……『終わらせる』から……」 その眞一郎の言葉を聞いて、苦しげに顔を歪め「嫌だ嫌だ」と首を振る朋与。 言いたくない。聞かせたくない。朋与を傷つけたくない。 ……でも…… 言わなきゃ飛べない。進めない。自分も、朋与も。 ………… 眞一郎は覚悟を決め、朋与の心を切り裂くナイフを抜き放った。 眞一郎が何か言っている…… 眼を潤ませながら、何か言っている…… 目の前にある唇が動くたびに、頭から血の気が失せて、視界が黒く濁っていく…… (……あぁ……始まっちゃった……) 掠れそうな意識の中で、朋与は眞一郎の言葉を噛み締めていた。 二人が心の片隅に隠していた想い……その終わりを告げる言葉を。 鼓膜が働くことを拒否しているので、眞一郎の声自体は、あまり良く聞こえない。 でも何が言いたいのか……何を言おうとしているのか……それは分かる。 眞一郎の唇が生み出す優しい言葉たちは、最後に自分の想いを粉々にするだろう。 …………もう……二度と元に戻れなくなるほど粉々に………… そして眞一郎は苦しみを一人で背負い込もうとしている。『自分を想ってくれる人を傷つける』という苦しみを。 (大丈夫だよ…… それ半分、私が背負ってあげるから……) 二人で始めた事だから、責任は半分づつだ。そして二人で終わらせよう。 眞一郎にだけ苦しい思いなんてさせない。自分も同じだけ苦しみたい。 ……だって好きだから…… ……だって……愛しているから…… ………… ………… 悲しみで靄の掛かっていた朋与の瞳が、スッと閉じられる。 そして、すぐに開かれた両眼には、萎えかけていた強固な意志が蘇っていた。 「……朋……」 突然、変化した朋与の様子に、眞一郎は一瞬だけ怯んだ。 朋与は肩に掛けられた眞一郎の手を払い除け、目線の高さにあるコートの襟元を締め上げるように掴む。 「!」 驚いている眞一郎を無視し、身体の反動を利用して、すぐ右側にあるベッドへ向かって眞一郎を投げ飛ばす朋与。 眞一郎の華奢な身体は突然の投げ技に逆らえず、無様にベッドの上で仰向けになってしまった。 「な、なにを…」 眞一郎が動転している僅かな隙に、朋与はブラとショーツを脱ぎ捨て、最後に髪留めを外し放り投げた。 壁に弾かれ床を跳ねる髪留めが、カツン、カツンと乾いた音を立てる。 眞一郎がその行方に気を取られた瞬間、朋与は眞一郎の腹に馬乗りになり、強引に唇を奪った。 「ッ!!」 眞一郎の口元全体を舐め回す様に味わったあと、朋与は唇を離してニヤリと笑う。 「ゴメンね……私、乃絵じゃないから……そんなのポエムみたいなこと言われても分かんない」 「……え……」 「それに……面倒くさいのも嫌い」 朋与の豹変ぶりに、眞一郎は言葉を失った。 そして乳房を眞一郎の目の前にチラつかせたまま、朋与は扇情的で下品な言葉の羅列を浴びせかける。 《見て……おっぱい、大きくなったでしょ?》 《眞一郎のこと考えて……ずっと一人でシテたの……》 《忘れられないよ…… だって凄かったんだもん、眞一郎のアレ……》 《ねぇ、しよ。もう濡れてるの…… 早く挿入れて……》 蛇が獲物を絞め殺すような動きで、自らの裸体を眞一郎に絡ませるはじめる朋与。 「しちゃおうよ…… そしたら全部忘れられるよ…… 比呂美のこともさ……」 舌で上下の唇をペロリと舐め上げ、フフフと笑う朋与が視界いっぱいに広がった時、眞一郎の心がキレた。 「やめろォォォォっっ!!!!」 絶叫と共に朋与の身体を突き飛ばして跳ね除け、眞一郎はベッドから転げ出る。 肺の中の空気を全て消費してしまったのか、呼吸がハァハァと荒くなっていた。 「…………」 起き上がり、体勢を立て直した朋与は、男を求める眼から一転して、侮蔑するような視線を眞一郎に向ける。 「なに格好つけてんのよ……本当はヤリたいんでしょ?」 「違うッッ!!」 即座に否定する眞一郎を、朋与はゴミでも見るかのように蔑み、そして笑った。 「フフ……おかしい。チンチン硬くして、なに言ってんの?」 さっきから勃起しっぱなしじゃない、気づいてないとでも思ってる?と眼を細める朋与。 「…………よせって言ったろ。そんな芝居」 「芝居? 何のこと? 随分と私のこと買い被ってるみたいだけど……勝手な妄想は迷惑なのよね」 馬鹿じゃないの?と吐き捨ててから、朋与の『口撃』は尚も続く。 あの時、優しくしてやったのは、上手くたらし込めば玉の輿に乗れると思ったから。 仲上酒造といえば、麦端で一二を争う名家だ。 ちょっと早いかな、とは考えたが、金持ちの家に転がり込むチャンスは、そう何度もやって来ない。 相手は失恋したての童貞バカ息子。相談するフリをして近づけば、簡単に堕とせる。 いい具合に妊娠でもすれば、後の人生、左団扇で暮らしていける。 「上手く行けばって軽い気持ちで始めたのに、それがこんな面倒なことになるなんてね~」 ハハハと乾いた笑いを漏らした朋与は、話を聞く眞一郎が全く表情を変えていないことに気がついた。 「!! ……な、何とか言ったらどうなのよッッ!!!」 瞬時に顔を険しくして、眞一郎に噛み付く朋与。 その朋与の様子を見て、眞一郎は両眼から大粒の涙を溢れさせる。 「! ……また……お、男のクセにッ!!」 もうこれで三度目…… 何度、自分の前で泣けば気が済むのか!! そう声を荒らげて罵倒する朋与に、眞一郎は静かに言った。 「……じゃあ……お前のソレは……何だよ…………」 「!!」 頬の違和感に気づき、ゆっくりと顔をなぞった朋与の指先が、水分を吸ってしっとりと濡れる。 (……私……泣い…て…………) いつからだろう…… いつから…… これでは台無しだ…… せっかく……上手く行って………… 眞一郎を…… 眞一郎を……解放して…… ………… 「もういい……もういいから……」 泣きながら微笑む眞一郎の声を合図に、ゆっくりと壊れていく朋与の表情。 涙は眼球全体を覆いつくし、その眼に映る眞一郎の像を歪める。 「朋与……」 床に倒れ込んでいた眞一郎が、ゆっくりと立ち上がるのが、ぼやけて見える。 横隔膜が痙攣をはじめ、呼吸が途切れ途切れになっていく。 …………限界が近い………… そう感じた朋与は、眞一郎に向かって、声を絞り出すように懇願した。 「……言って……私…私が……壊れちゃう前に……ちゃんと!……言ってッッ!!」 その悲痛な叫びを耳にし、眞一郎は震える両脚を踏ん張り、拳を固く握り締めて朋与に向き合う。 そして……涙で透明に塗装された朋与の顔を真っ直ぐに見つめながら、眞一郎はその『想い』を切り裂いた。 『俺が愛してるのは……『朋与』じゃないッ!『比呂美』だッ!! これから先、ずっと側にいて欲しいのは……『湯浅比呂美』だッッ!!!」 ………… ………… 一瞬の……眞一郎と朋与にとっては、永遠とも思える静寂が訪れる…… ……そして、それを破ったのは、地を這うような朋与の笑い声だった。 「……ハハ……ハハハ……」 再び顔を伏せ、狂ったように笑いながら、朋与が眞一郎に向かって最初に投げつけたのは枕だった。 虚ろな表情のまま、破壊された心を表現する様に、ベッドの近くにある物を次々と眞一郎めがけて投げ続ける朋与。 文庫本、CDケース、ぬいぐるみ……朋与が手に取れる、ありとあらゆる物が眞一郎に向かって飛んでくる。 眞一郎は身体に命中するそれらを黙って、ただ黙って全身で受け止めていた。 「……ハハハ……そんなこと……そんなことね…………」 右手に目覚まし時計を手にした瞬間、朋与はグシャグシャに崩れた顔を眞一郎に向け、そして叫んだ。 「…………最初からッ…分かってるわよおおおッッッ!!!!」 弓のようにしなった朋与の右腕が、プラスチックの塊を放り投げる。 壁に叩きつけるつもりで投げたそれは、真っ直ぐに眞一郎の顔面に向かい、ガツッと音を立てて額に直撃した。 それは微動だにしない眞一郎の気力で跳ね返され、硬い床の上で部品を撒き散らしながら転げ回る。 「!」 眞一郎の額……その左側に赤いものが滲むのを見て、朋与はハッとなった。 瞬間、怪我を案じる表情を浮かべ、ベッドに沈みかけていた身体を半分立ち上げる。 「……あぁ……」と声にならない声を漏らしながら、朋与は手を眞一郎に伸ばしかけるが、瞳を伏せて思い止まる。 ……もう……『眞一郎』に近づいてはダメ……触れてはダメ…… 今度は……私が『眞一郎』を……解放してあげる番………… ………… 眞一郎に差し出した手の平をギュッっと握り締め、朋与はそれをベッドに向けて垂直に打ち付けた。 ドスッという鈍い音に反応して、眞一郎の視線が僅かに動く。 ベッドにめり込ませた自分の拳を見つめながら、震える声で朋与は言う。 「…………消えろ…………」 「…………」 動くことも、口を開くことも出来ずにいる眞一郎。 その気配を感じた朋与は、最後の涙を溢れさせて叫んだ。 「…………私の中から消えろッッ!! 仲上眞一郎ぉぉぉッッ!!!!」 朋与が眞一郎に向けて放った最後の言葉…… それに込められた悲しみと苦しみが眞一郎の『想い』を貫き、粉々に砕け散らせた。 そして眞一郎も最後の別れを告げる。 止め処なく流れる涙を隠すこともなく、拭うこともなく、顔を上げない朋与の姿を目に焼き付けながら…… ……最後の言葉を…… 「…………さよなら……『朋与』…………」 朋与からの返事は無い…… もう二度と呼ぶことはない『朋与』という名前…… 眞一郎は身体に残った想いの断片を、その一言の中に全て込めた。 ……終わったのだ…… ……もう自分はここに……朋与の側に居てはいけない…… 眞一郎はもう一度、肩を震わせて心の崩壊に耐えている朋与の姿を脳裏に焼きつけて、部屋のドアを開けた。 「!」 戸口をくぐりかけた時、廊下に鎮座していた朋与の愛猫、ボーの睨むような視線に、眞一郎は捕まってしまった。 「シャアアアーッッ!!」 ボーは眞一郎の姿を確認するなり、全身の毛を逆立てて牙を剥く。 ……朋与を泣かせる奴は、この家から出て行け!!…… そう叫ばれた気がして、眞一郎の胸は更に深く抉られた。 ドアを開けたまま固まっている眞一郎の横をすり抜け、ボーは主人の元へ急ぐ。 眞一郎が静かにドアを閉めると、中から朋与を慰めるような、ボーの甘い鳴き声が聞こえてきた。 そして……眞一郎がドアから離れ、一階へと向かう階段に脚を踏み出した時…… 「……うぅ…うわあああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」 壁を突き抜けて、朋与の激しい慟哭が、眞一郎の背中に突き刺さった。 それに呼応するように、眞一郎の眼からもまた、大粒の雫が零れ落ちる。 「……うぅ……ううぅぅっ……」 声を堪えるのが精一杯だった。拭っても拭っても、その雫の噴出は止まる気配を見せない。 それはまるで涙腺が意思を持ち、『人が人を想う気持ち』の不可解さと尊さを、眞一郎に教えているかのようだった つづく ある日の比呂美7
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新年度の始まり-5 キィ…、扉を開けて部屋に入ると、 「あら?、お帰りなさい。勝手に中で待たせてもらっているわよ?」 盛り上がっている二人が目にしたのは、正座した眞一郎の母の姿だった。 「どうしたの? そんなとこに二人で止まって。比呂美ちゃん、ごめんなさい ね? 勝手に入って」 眞一郎の母は、普通に話している。 「な、何でここに…母さんが…」 かすれた声で眞一郎が聞いた。 「電話の後で用事を思い出して、ここが丁度通り道だったのよ。ついでに比呂 美ちゃんを迎えようと思って帰りに寄ったのよ? どうかした?」 「い、いや。別に…」 「…」 眞一郎は何とか会話ができているが、比呂美には無理だった。まだ扉の前での 事が頭をよぎり、まともに"お義母さん"の顔を見れないでいた。 「迎えに、って?」 鞄を握り締めたまま眞一郎が会話を続けた。比呂美の様子が気になるが、今は それどころではない、必死に口調を抑え、努めて冷静を装った。 「ほら、明日の話。朝から準備が必要だから、手伝ってもらいたいのよ。 ついでに家に泊まればいいでしょ?」 「あ、そ、そうなんだ。比呂美、どうする?」 隣で硬直していると思ったが、会話の流れからして話かけざるを得ない。「頼 む!」と心で念じていた。 「あ、はい…。行きます…」 眞一郎の願いが通じたようだ。まず"いつもの比呂美"と言っていい声だった。 「そう、助かるわ。着替えて準備できるかしら? 私達は外で待ってるから」 「はい、そんなに時間はかからないですから…」 眞一郎は2人の会話にほっとしていたが、思わぬ指摘を受けてしまった。 「ところで…、いつまで手を繋いでるつもりなのかしら?」 「あっ」 「あ…」 そう、部屋に入ってから今まで、比呂美はずっと眞一郎の手を握り締めていた。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「仲いいわね? あなた達…」 「ま、まあ…」 母親の言葉に、目を合わせないで返事をする眞一郎は、さっきの事を何て言え ばいいのか、ちょっと困惑していた。 「少しは話を聞いているけど、あんまり目立っちゃだめよ?」 「分かってるって」 比呂美の仕度が終わるまでの10分くらいの間、眞一郎は母親からの質問やら、 説教じみた言葉に、ほとんどの体力を使い果たしていた。 「お待たせしましたぁ。はぁ…はぁ…」 比呂美が少し息を切らせて、階段を降りてきた。私服に着替え、少し大きめの バッグを持っている。 「ほら、しんちゃん。持ってあげなさい?」 「あ、ああ。比呂美、俺が持つよ」 「えっ、いいよ。そんなに重たくないし…」 一泊分の荷物はそれ程多くは無い。しかも、"何度も仲上の家にお泊り"してい るから、慣れている重さだった。 「遠慮しなくていいわよ。しんちゃんは男の子なんだから、当然でしょ?」 「だって、はい」 眞一郎は比呂美の手からバッグを受け取った。 「あ、ありがと。眞一郎くん…」 「いいって」 目を合わせる二人に、冷静な声が降りかかった。 「あなた達…、いつもそうなの?」 「「え?」」 もう一人いることを二人はすっかり忘れていたようだ。 その後、比呂美は"お義母さん"と並んで歩いて、明日の準備について色々と相 談しながら、仲上家の玄関をくぐった。 4人での夕食は"以前"と異なり、和気藹々と様々な話をして、それぞれが楽し い時間となった。食事の後、お茶を飲みながら"明日の集まり"について詳細に 相談していると、あっという間に深夜となっていた。 入浴を済ませて就寝する前に、比呂美が眞一郎に言った。 「今日、残念だったね?」 「明日の集まりが終わったら、な?」 「うん…。おやすみ、眞一郎くん…」 「ああ、おやすみ、比呂美」 キスはしなかった。二人ともそれで止められるとは思っていなかったからだ。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― その夜、朋与の携帯電話が鳴った。 「あさみ? 遅かったじゃない」 『ごめ~ん』 「で、何だっけ?」 『…』 「じゃ、オヤスミ~」 『待って待って! 仲上くんの話!』 「はぁ、頭はそれでいっぱいってことかな?」 『う…うん。ごはん食べても、お風呂入っても、そればっかり…』 「あちゃ~、時間が経ったら少しは冷めてるかと思ったけど。違うみたいね?」 『うん、落ち着かない。今日のこと色々思い出したら、もうダメ…』 「うわぁ」 『そんな言い方やめてよぉ。ねぇ? どうしよう?』 「考えるんじゃなかったっけ?」 『か、考えると、仲上くんの声が…』 「ああ、あの"告白"?」 『うん…』 「あさみに言ったんじゃないのは分かってるよね?」 『だって、もしって思ったら…』 「すごい妄想膨らましてない? ちょっと危ない感じ」 『うっ、だって、あんな風に言われたら…、朋与だったらどうなの?』 「あたし? そぉ~ねぇ…………」 『どお? きた?』 「やるじゃん、仲上眞一郎」 『でしょう?』 「あのねぇ…」 『どうしよう? どうしよう?』 「当たって砕ける?」 『ああぁ、今当たったら、絶対砕ける…、砕け散っちゃう…』 「はははっ、そうだねぇ」 『わ、笑うとこ? 今?』 「だって、想像できるじゃない? ごめん、比呂美がいるから…、って」 『…うん。……………』 「あっ、死んだ?」 『死にそうだよぉ…。そういう事言う?』 「ごめん、ごめん」 『ホント、どうしよう…』 「かなり敵は固いよ?」 『うわぁ、比呂美ってば強そ~。普通にレーザーとか反射しそう…』 「シューティングかっての! 違うって、あん時の事、覚えてる?」 『え? いつ?』 「ほら、あんたが祭りの後、教室で仲上君に話しかけてた時、比呂美が…」 『あっ…、思い出した』 「今思えば、あの二人が人目を気にしないのは、比呂美の影響だね?」 『そうかも…』 「あんたに真似、できる?」 『皆の前で?』 「そう」 『…する、かも』 「うわぁ、うわぁ。ね? ひょっとして本気モード?」 『…』 「あたしは何もしないからね?」 『うん、朋与には迷惑かけない、つもり…』 「つもりって何? つもりって?」 『言葉のアヤ?』 「あんた、比呂美にバラすよ?」 『アイス一本』 「随分と安い女だね? あたしって…」 『…』 「まぁ、それだけ余裕があれば、暴走はしないかな?」 『当たったら砕けるの分かってるから…、どうしよう?』 「そろそろ切ってもいい? 明日の服決めたいし、お風呂まだなのよ」 『さっさと入ればいいのに…。何してたの?』 「…電話…待ってたんですけど?」 『ごめん』 「背中がかゆい」 『ちゃんと洗わないとダメだよ?』 「切る」 『ああっ! 待って! 切らないで! 私を捨てないで!』 「俺には比呂美が…」 『ぐあぁ…………』 「あさみぃ、今度こそ死んだ?」 『ホント死にそう…。あっ、コレにしようかな?』 「ちょっと、相談しながら服選んでんの?」 『うん…。コッチもいいなぁ…』 「やっぱり切る」 『話聞いてよぉ』 「はぁ…。そういえば、メール読んだ?」 『読んだ…』 「比呂美、今日は仲上君の所に泊まるみたいだね…」 『二人はそこまで進んで…』 「はい、妄想はその辺までにして」 『は、裸エプロン…。うっ…』 「興奮すんな!」 その後、なんだかんだとあさみとの電話は長引いていた。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 翌朝、眞一郎の部屋。二日連続で起こしにきたのは、 「おはよ」 優しく声をかける比呂美。 「…」 「お・は・よ♪ 「ん゛」 もそっと身じろぎするのを見て、ベッドに腰掛け、顔を近づける。 「お~は~よ~♪、しん♪いち♪ろう♪くん♪」 「ん~ん゛」 まだ起きない様子に、またもや大胆な行動に出ることにする。 「いたずらしちゃうぞ~♪」 甘ったるい比呂美の声。 「…」 無反応なので実行に移すことにした。 「えいっ!」 「んっ!…ん……ぷはっ…」 目を見開いたまま驚きつつ寝ぼけた表情を見て、朝の挨拶。 「おはよ~♪、眞一郎くん♪」 間近で頬を染めつつ上機嫌な比呂美の顔を見たが、返ってきたのは、 「…」 完全に目が覚めていないので、無言だった。 「ちゃんと起きた?」 「ん~? 比呂美?」 「うんっ♪」 がばっと眞一郎が抱き寄せる。背中に腕が回り、少しきつめの抱擁。 「えっ!? ちょっ!」 「比呂美ぃ~」 眞一郎はまだ寝ぼけていた。 「もう…、しょうがないなぁ~♪」 これ以上無いくらい甘ったるい比呂美の声が、朝日が差し込む部屋で響いた。 続く…よ? END -あとがき- あさみのキャラは本編で描写がないので作ってみましたが、どうでしょう? 呼称も仲上くんになりました。微妙な変化ですが、ニュアンスが伝われば。 朋与の本心はまだ未定。話が進むと勝手に現れてくるでしょう。 基本的には先の話を考えずに、頭の中で自動的に動いている様子を文章に してます。なので、自分でもどうなるかわからない…。 オチだけは作為的に話の途中で止める方向で。 さて、次は仲上家での"集まり"。新キャラを一人追加予定…。 ありがとうございました。
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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第4弾 『比呂美日記』 ○月○日(日) 今日は本当にいい事ががありました。 眞一郎君に嫌われたり軽蔑されてないか心配だったけど、 大丈夫だったみたい。 朝、顔を洗って鏡の中の自分を見つめた。 昨夜のおば様の言葉もあって 私ってお母さん似なのかななんて 考えたり 眞一郎君との事もあって全然眠れなくて 鏡の中の私は今日も晴れやかな顔はしていなかった。 少しボーっとしてたのかもしれない。 今日も突然、眞一郎くんが戸を開けた。 眞一郎くんはいつも突然現れる。 この間もそう、ヘンなところ見られて思わず謝っちゃったし。 今日だって、パジャマのままで髪だってタオルでまとめたまま、 おでこ丸出しのヘンなところをしっかりと見られちゃった。 顔を洗った後だったのがせめてもの救い。 さり気なくタオルを外したつもりだけど大丈夫だったかな? びっくりして固まってたら眞一郎くんが近づいて来ちゃって慌てて逃げちゃった。 今思い出してみると慌てて逃げたらヘンに思われちゃうかもしれない。少し反省。 でも、気の利かない子だと思われても困るし、早く場所を空けないといけなかったのに。 どうしても眞一郎くんの前だと緊張しておかしくなるみたい。 けど、やっぱり傍にいるのは恥ずかしい。 少しだけ離れた場所に立つのがやっと。 この間のお使いの時と一緒。 あの時も結局、並んで歩いていい距離が判らなくて少し離れてついていった。 いつものように、並んでも許される距離より少しだけ離れて。 眞一郎くんは「おはよ。」と先に言ってくれた、怒ってないか怖かったけど 私も何とか「おはよ。」と言えた。 本当はもっと早く私から言わなきゃいけなかったのに 眞一郎くんが昨日の事言い過ぎたって謝ってくれた。 これもそう、私が先に謝らないといけなかったのに 悪いのは私なのに、ウソをついてたのは私なのに 眞一郎くん、歯磨きと洗顔フォームを間違えて使っちゃった。 あんまり堂々としてたんで教えてあげるの間に合わなかった。 この時、私も緊張が解けちゃったのかな? 目の前の眞一郎くんはいつもの困ったような顔をしてなくて、自然で、昔みたいで 嬉しくなって携帯で写真撮らしてもらった。 信一郎くんはポーズまでとってくれるサービスぶり。 なんだか嬉しい。私の知ってる信一郎くんだ。 このお家にお世話になって色々あって 私、信一郎くんにどんな顔をしていいか判らなくて 信一郎くんも、私を見るとき何だかいつも困ったような顔をしてた。 やっぱり迷惑かなとかずっと不安だったけど 今の信一郎くんは笑ってくれてる。 なんだかとっても嬉しい。 今日はお部屋でずーっと眞一郎くんの写真見てた。 このくらい許されるよね、大丈夫だよね。 いつもの置いて行かれる夢はもうみたくない。 今夜だけでも笑ってる眞一郎くんの夢がみれたらいいな。 おやすみなさい。 眞一郎くん。 了 ●あとからあとがき 4話まで視聴済み 告白します 1話の『だだいま』で引き込まれ、 3話ラストで心配になり… 4話のこの30秒ほどのシーンで比呂美さんに溺れました 日記というスタイルでこのシーンの比呂美の心理に迫ろうと試みたものです タオルをさりげなく外すシーン最高です! 記憶のみを頼りに書いたので最後の辺り違いますね(曜日も) 後から読み返すとこれ書いてたときの自分の頭は 何かに乗っ取られてたんじゃないかと心配になります あ、もう手遅れですね、はい
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比呂美の部屋にて: 「アイス食べようか?」 食後、眞一郎が聞いた。 「うんっ、でも、たぶん一本しかないよ?」 「ホントだ。じゃあ、半分こな?」 「うんっ!」 アイスを取り出し、比呂美の後ろに座った。 「眞一郎くん?」 「おいで」 「う、うん…」 比呂美は眞一郎の腿に座る。腰を抱かれ、少し頬を染めた。 腕を首に回し、胸を少しだけ突き出し、ちょっとだけ"つん"する。 「どうしたの?」 いつもは服を着たままでこんなことはしない、比呂美はちょっと疑問に思った。 「半分こだろ?」 「うん…」 「ちょっと待って。はむ…ん………ほぉら」 眞一郎は小さめに口の中に含んで、比呂美の顔を見上げた。 「え?」 「ほぁやぁく」 「う、うん。…ちゅ…ん…んく…ん……ちゅ………こくっ…んくっ…ちゅぱっ…」 頬をさらに染めながら唇を合わせ、舌を入れてアイスを食べた。 「おいしいか?」 「うん…、すごく…おいしい…。もっと…食べたいの………もっと…」 熱い視線で見つめながら、色っぽい声を出していた。 「はむ……ん…ほぉら…」 またも、小さく口に含んで見上げる。 「いただきまぁす♪」 比呂美が上機嫌で顔を近づけてきた。 何回か繰り返していると、溶けたアイスが垂れた。 「……ん…んく…あ、眞一郎くん。手に付いてるよ?」 「ありゃ、やっぱこの食べ方は時間かかるな?」 「うん…」 「ティッシュあるか?」 「それよりもいい方法があるよ?」 「ん?」 「眞一郎くん…、手、出して?」 そう言ってアイスを持つ手首を優しく握り、自分の口元へ近づけていく。 「え?」 「私が綺麗にしてあげるね? ぺろっ……れろっ…ん…ん……ちゅ…ちゅっ…」 比呂美は眞一郎の手を、舐めたりキスしたりしながら、熱い視線を送る。 「はい…、綺麗になったよ? 今度は私が食べさせてあげるね?」 「あ~ん」 「もう…、ちょっと待って…。あ、また垂れそう……れろっ……ぺろっ…ちゅ…」 比呂美はアイスを頭を動かして、淫らに舐めたりキスしたり。 「はむ………ふぉい………ん…ちゅ…………んく……こく……」 積極的に舌を絡ませ、眞一郎を愛撫する比呂美。 瞳は快楽を求めるように光り、腰を淫らに前後させながらキスする。 比呂美は何回も自らの口で眞一郎に食べさせた。 「おいしいね? アイス」 「うん、旨い」 「もっと、もっと、食べたいの…」 「でも、もう無いよ?」 「今度は、眞一郎くんの……熱いアイスが…いいの…」 「だめ」 一度断ると"おねだり"が始まることを知っていた。 「あぁ~ん、お願ぁい、食べたぁいのぉ」 体を淫らにくねらせ、胸を顔に押し付けて"おねだり"。 そして… 小ネタなんで、続きはないです。
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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第11弾 『おやすみ前の秘めやかな遊戯』 今夜もまた訪れてしまった彼の部屋 こんなに頻繁に訪れるのは乙女のたしなみとしていかがなものかとの不安を禁じえない。 パジャマ姿のまま上からカーディガンを羽織っただけの格好というのも問題かもしれない。 かといってこんな時間にきちんとした格好で訪れるというのも違和感がありそうだ。 だが、時折寄せられる彼の視線は好ましい印象を与えている事を証明しているようでもあった。 こんな私を彼はどう思っているだろう。 しかし、今夜も繰り返されるであろう遊戯の甘美な誘惑に抗うすべを私は知らない。 コンコン 彼の部屋の戸を叩く 「はい」 「眞一郎くん?」 「比呂美?」 部屋の戸が開き彼が姿を現す。 彼はいささかも驚いた様子はない。 私の来訪を当然のことと捉えているに違いない。 彼は今日も一日中、私の胸のうちを知りながら、何食わぬ顔をしていたに違いないのだ。 全て見透かされているかのよう、胸の高鳴りが速まってゆく。 「ごめんね、また来ちゃった」 「うん、まあ もうちょっと待っても来てくれなかったら、俺が行くとこだった」 「ふふっ、またそんな事言って」 「見つからなかったか」 「うん、大丈夫みたい」 「はいって」 「おじゃまします」 昨夜も訪れた彼の部屋、記憶がよみがえり体の芯を熱くする。 あの無上の喜びを初めて彼に教えられてから5日間、私の心が休まるときはない。 私の日常はその殆んどが彼と同じ空間で営まれる。家人を前にしての食事時、学校の彼と同じ教室で、 彼の姿を見、声を聞き、視線を絡ませあう度に繰り返し繰り返し、これから始まるであろう遊戯を期待させられた。 この期待は私の心身の奥深くまで到達し、私を解放してくれることは無い。 「じゃ、しよっか?」 「もう?」 「嫌?」 「ううん、じゃ、はじめましょうか」 何をしにきたのか、とは問われなかった。 やはり彼は私の訪問理由を確信していたのだ。 彼が慣れた手つきで準備を始める。 手伝った方が良いかとも思ったが彼に任せる事にした。 「比呂美が先でいい?」 「うん じゃあ よろしくお願いします」 彼はいつも私から先に始めさせる。 教えられた基本に沿って動きを開始する。 「最初に比べればずいぶん巧くなってきた。才能があるんだよ。上達が速い」 思わず頬の赤みが広がるのを止められない。 この言葉による責めも彼のテクニックなのだろうか。 この密室に二人きりでいる間は彼以外の人目を気にする必要がない。 私がこの遊戯に没頭している間、私に向けられる彼の視線を感じる。 私もまた彼が遊戯に没頭している間、彼に視線を注ぐ。彼は気付いているだろうか。 始まって数分後 彼が私の隙をついて責めてきた。 「あっ! そんなところ ダメッ!」 「だーめ、それ、それ、それ、それ、それ」 彼の指先が一定のリズムで私の色を彼の色に染め替える。 「あっ あっ あっ あっ ああっ」 はしたないと自覚しつつも彼のリズムに合わせて思わず口から声が漏れてしまう。 「どう?」 「まだ、大丈夫…」 「がんばるね」 このままではいけない。 彼のペースに押されながらも何とか抵抗を試みる。 戸惑いをはらんだ私の指先が彼の弱点を衝いてゆく 「さっきのお返しね」 「ちょ そこ待った!」 「ダメ 許してあげない」 「待て!」 「えい、えい、えい、えい、えい、こっちも、えい、えい、えい 」 「比呂美… 容赦ないんだ」 昨日までと違い、こちらから積極的に彼を責めたてる。 本で得た知識を動員した。 早く彼と対等になり、少しでも楽しんで欲しい。 彼の動きと私の動きが複雑に絡み合い、予測不能な結果をもたらす。 二人だけの世界、他者の入り込む余地はない、無上の喜び。 「いつの間にそんなテクニックを」 「えへへ 本で勉強したの」 「比呂美が本気出したらすごい事になりそうだな」 「そ そんなこと ないんだから」 胸の内の想いを覗かれたみたいで心拍が一段と高鳴る。 そうこうするうち彼が私の急所を衝いてきた。 彼の事だ、切り札として残しておいたに違いない。 「おねがい そこ 許して」 「比呂美の困った顔 かわいいね」 「…いじわる…」 静かな室内に彼のリズムが響き渡る。 パチン パチン パチン … 彼は容赦なく私を追い詰め、逃げ道を奪い、蹂躙する。 私は抗う事も出来ずに彼の思いのままにされてしまう。 「あっ ひどい そんな…」 「…」 「ハァ もう ダメ…」 「ごめんな 比呂美 少し加減しようか?」 「ううん 早く慣れないと… 眞一郎くんに楽しんでもらえないから…」 「この間が最初だったんだからしょうがないよ」 遊戯を終えいつも通り彼の言葉に慰められる。 気を取り直し昨日と同じ願いを口にする。 「もう1回 ね いいでしょう?」 「でも、そういって 昨日も結局何回もしちゃって おかげで寝不足で…」 彼は少し困ったように答える。だが本気の拒絶ではない。 私が甘声でお願いすると、彼は基本的には受け入れてくれる。 そんな彼の態度を確かめたくて、罪のない範囲で少しはしたなくお願いを口にする。 「だって 眞一郎くんばっかり ずるいよ 私 全然…」 「ずるいって言われてもなぁ」 「私とするの つまらないんだ?」 「い いや 楽しいひと時を過ごさせてもらってます」 「じゃあ もう1回だけ しよ?」 「うん 分かったよ」 「やったあ♪」 少し大げさに喜んで魅せる。 今夜も彼は私の願いを受け入れてくれた、あと何回大丈夫だろうか? 明日の時間割を思い出しつつ過度の負担にならない頃合を計算する。 だが、朝の食卓で、同じ教室で、二人そろって寝不足の体を晒していては、 そのうちいつか誰かに気付かれてしまうかもしれない。 そんな事になれば、彼はどうするだろうか? 私はどうするだろうか? 今このとき確かめてみたい新たなる誘惑が待ち構えていることを発見した。 2回目の準備をしながら彼は言った。 「やれやれ 比呂美がこんなにオセロに夢中になるなんて…」 私を夢中にさせているのはゲームとそれに何より彼自身なのに、 これはもう一生をかけて後悔してもらうことにしよう。 そう改めて決意した。 了 ●あとからあとがき 5話まで視聴済み 4話で『夜這いだ』などと心無い中傷を受けているので逆手にとってみました。
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#03 ちっちゃなころから…… おもいだしてみると、ひろみとはようちえんのときもずっといっしょだったきがする。 すなばであそんでても、おにごっこをしててもついてくる。おひるはいつもとなりにいすをもってくる。 ひるねのじかんなんかは、てをつないでいっしょにねないとなくからたいへんだった。 「ほんとにひろみはこどもだよなぁ」 ぼくはためいきをつきながらそんなことをぼそっといった。 「なあに?しんいちろうくんどうしたの?」 いつものようにとなりをあるくひろみがきいてきた。ちいさいこえでいったのに、きこえてたのか。 「ん~、ようちえんのときのことおもいだしてた。ひろみっていっつもぼくといっしょだったなって」 「えへへへ。だってしんいちろうくんは」 「ぼくは?」 「……なんでもないっ」 ぷいっとそっぽをむくひろみ。なんとなくかおがあかいきがするけど、なにをいうつもりだったのかな…… まあいいか。きにしないで、ぼくはさっきおもいだしたことをいってみた。 「でもさ、いまはないけどひるねのときにてをつながなきゃねれないって、あれはコドモだったよね」 びくっ、としているひろみ。もしかしておもいだしたのかな? 「そ、そうだったっけ?」 「そうだよ。ねんちょうさんになってもいっしょにねてたのはひろみぐらいだったよなー」 「だって、そのほうが……ごにょごにょ…」 「???…まあいっか。あ、そういえばいちどだけねてるときひろみにたたかれたことがあったよね。あれは」 「わーーーーー!!!」 いきなりひろみがさけんだ。 「な、なんだよひろみ」 ひろみがすごくあわててる。 「なんでもないのっ!しんいちろうくんをたたいてなんかないもん!きのせい!きのせいなのっ!」 「そうだったっけかな~。おきようとしたらたたかれなかったっけ?」 「ゆ、ゆめだよー!きのせいきのせい!だからわすれるの!!」 「……ほんとに~?なんかかくしてない?」 「かくしてないもん!ゆーめっ!ぜったいゆめ!!」 そういってひろみはぼくのかたをつかんでがくがくゆさぶってきた。ううう、ゆめ、なのかなぁ。 「わわわわっわかった、わかったよぅ!!」 「……ぜえぜえ……わかってくれて、…うれしい…しんいちろうくん……」 なんだかすごくつかれた。やっぱりひろみもちっちゃいころのはなしははずかしかったのかな? こんどからあんまりいわないようにしよう。 そのあとひろみはふきげんになっちゃって、あんまりはなしをしないままいえにかえっていった。 --------- (びっくりした…) しんいちろうくんとべつべつのかえりみちになってから、わたしはほっとしてとまった。 うしろをふりかえると、とおくのほうにちっちゃくなったしんいちろうくんがみえる。 (うう、しんいちろうくんごめんね) わたしはちいさくあやまった。 さっきはしんいちろうくんのはなしにおどろいて、ついゆさぶっちゃった。 しんいちろうくん、めをまわしたみたいだったけど、だいじょうぶだったかな…… でも、まさかしんいちろうくんがおぼえてるなんておもわなかったから、すごくびっくりしたんだもん。 あの、いちどだけ”オマジナイ”のとちゅうにめがさめちゃったときのことを---。 ようちえんのとき、わたしはいつもしんいちろうくんといっしょにおひるねしてた。 いちまいのタオルケットで、てをつないで。 いまおもうとすごくダイタンだったとおもう。でも、あのころはそれがふつうだったし。 いまみたいにひやかすおとこのこたちもいなかったから、すきなようにいっしょにいれた。 ただ、ねんちょうさんくらいからしんいちろうくんははずかしがって、にげようとしたりしてた。 けど、わたしがなきそうなかおをすると、きまって「しょうがないなー」っていってくれて。 やっぱりいつもとおなじようにいっしょにおひるね。 あのひも、そんなふうだった。 わたしはいつものようにしんいちろうくんがねちゃうまでじっとねたふりをして、”オマジナイ”をするまでまってた。 10ぷんくらいじっとしてると、しんいちろうくんはねちゃったみたいで、すぴー、すぴーってねいきをたてた。 (……ねちゃったかな?…) もそもそっとおきて、しんいちろうくんのほっぺたをつんつんしてみる。よし、ちゃんとねてる。 わたしはねてるのをかくにんして、いつもの”オマジナイ”をはじめた。 (……んっ……) ちょっとくちをまえにだして、しんいちろうくんのおくちにちゅってあわせる。 はじめて”オマジナイ”をしたときはすごくどきどきしたけど、まいにちやってたらだんだんたのしくなってきた。えへへ… それに、しんいちろうくんのおくちって、やわらかくってきもちいいし。ほわ~っってなる。 さいごに、しんいちろうくんのおみみに、ちいさいこえで”オマジナイ”のじゅもんをいう。 「しんいちろうくんはひろみとずっといっしょ、しんいちろうくんはひろみとずっといっしょ、しんいちろうくんはひろみと……」 10かいいえばおっけー。これでふたりはえいえんのあいが…なんとか…なんだって。 とにかく、「えこえこ」なんとかってゆーどらまでやってた。ききめばつぐんのはず。 そうやってひととおり”オマジナイ”がおわって、あんしんしてたら、しんいちろうくんがおきそうになった。 「……ん…なに……ひろみ…?」 いつもはぜったいにおきないのに、そのひだけめがさめそうになるなんて。ほんとにびっくりした。 それで、すごくあわてたわたしは、しんいちろうくんのほっぺにぱんちをしちゃって。 そのまま、またおひるねしてもらっちゃったんだっけ。 ----------- 「おぼえてないとおもったんだけどなぁ」 いまはやってないあの”オマジナイ”のことをおもいだして、ためいき。 こんなこと、しんいちろうくんにはいえないし。やっぱりしったらおこるかな? でも、わたしがしんいちろうくんのおよめさんになったら、いってもおこらないかも。だってふうふはなかよしだから。 うん、きめた。それまではやっぱり、ひみつ! 「しんいちろうくんの、およめさん。…えへへ、”ずっといっしょのおまじない”がきくといいな」 とりあえず、あしたしんいちろうくんにあったらゆさゆさしたことだけはぜったいあやまろう。 そんなことをかんがえながら、わたしはおうちにかえった。